遺言にまつわるショートショートストーリー(1)

By | 12月 27, 2010

遺言にまつわるショートショートストーリーを書いてみたものの、最終的には没になった原稿です。このままごみ箱行きはもったいないので、掲載しておきます。

「鋼の踊り子(はがねのおどりこ)」

「お父さま、食事の用意ができました」
「そうかい。いつもすまないね」
わたしは、長男の嫁として当然のことをしているつもりでした。
お父さまの期待に逆らって、好きな陸上競技に打ち込み、来月の競技会で上位に入ればオリンピックへの出場も夢ではないと夢中になっている慎治さん。
その慎治さんが競技会の二日前、私に「今、絶好調なんだ。絶対勝つから」というたった1通のメールだけを残して逝ってしまいました。あれほど乗らないでね、と言っていたバイクでの事故死でした。
その日から、世界に、日本の竹造ありと知られたおとうさまの手が震えだしました。お父さまの手が作り出すものは、鋼鉄をまるで布のように織りなした「鋼の踊り子」の名で世界に知られ、遠くパリ、ローマからも注文が来る、そのお父さまの手が言うことをきかなくなりだしました。
病院に入院されているおじいさまはもう95歳です。そのおじいさまがまるで慎治さんの後を追うように静かに息をひきとりました。
おじいさまの葬儀を終えて、初七日が下町の小さな町工場の片隅で営まれた翌日、見知らぬ人たちが訪ねてきて、土地や工場を売り払うと言います。
「お父さま。あの人たちは?」
「兄弟だ。こんな時だけ来るような奴らよ。土地や工場の名義が親父だということを知っていやがる」
「ご兄弟でしたか。私失礼なことを申し上げたかも」
「いいんだよ。ほっとけば」
それから3日後、お父さまに言われて、おじいさまの遺品を整理していたとき、机の引き出しの奥から「」と書かれた封筒が出てきました。
封を開けましょうかとお父さまに言おうとした時、私思い出しました。以前にテレビで小さな子供の司法書士が出てくる番組で、遺言書の封は勝手に開けてはいけないと言っていたことを。かわいい司法書士さんでした。
わたしは、お父さまと一緒に、一駅先の駅前にある司法書士事務所を訪ね、「検認」という手続をとっていただきました。
裁判所で、開いた遺言書には、工場と土地はすべて二男の竹造に相続させる、と書いてありました。兄弟のみなさんはしぶしぶ納得されていました。
裁判所からの帰り道、お父さまがおっしゃった言葉が今も忘れられません。
「なあ、京子さん。親不孝な息子の嫁ではなく、わしの娘になってもらえんだろうか」
そのとき、ジョギングの若者が私たちを追い越していきました。
その姿に、ふと慎治さんの面影が重なり、そして春風の中に消えていきました。
その日から、「鋼の踊り子」は再び世界に舞い始めたのです。
おじいさま、ありがとうござます。
一通の遺言書が私たち父娘を助けてくれました。
・・・どうも、つまらない思い出話をお聞きいただきありがとうございました。

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1 Comment so far
  1. Robinson 4月 12, 2011 10:48 PM

    With the bases loaded you struck us out with that anesrw!

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