司法書士長谷川事務所

家族による民事信託(家族信託)Q&A

家族による民事信託(家族信託)について、聞きたいこと、知りたいこと、ちょっとした疑問から実際の信託契約締結に至るまで、民事信託士・司法書士がお答えします。このサイトでの回答内容はあくまで参考とお考えいただき、実際に家族による民事信託(家族信託)の設定(信託契約を締結して信託すること)をお考えの場合には、面談によるご相談をお受けいただくようお願いします。
(司法書士・民事信託士 長谷川清)

もくじ


Q1.不動産を信託する場合に、受託者名義に変更しなければなりませんか?名義変更はしたくないのですが...。

信託は、信託財産の所有権を受託者に移転することになります。ただし、受託者は所有者として自由に処分できるのではなく、あくまで信託目的により管理等をおこなうということになります。受託者の固有財産とは別に管理をおこなわなければならないのです。そのことを信託法は「分別管理」といって、受託者にその義務を負わせています(信託法34条1項)。
不動産の場合の分別管理は、「この不動産は受託者の名義ですが信託財産です」ということを登記(信託登記)することによっておこないます(同条1項1号)。信託契約を締結した後、信託財産たる不動産について受託者名義の登記および信託登記をしないということはできません(同条2項)。この点、登記をしないことが可能であるという言説があるようですが、賛同しかねます。委託者にとっても受託者にとっても、そして受益者にとっても、将来問題が起きないためにきちんと登記手続をなさることを強くおすすめします。(2020.4.16回答)

もくじに戻る

Q2.ある銀行の預金口座をそのまま信託することはできますか?

預金口座そのものを信託することはできません。
預金者と銀行との関係は、預金者が債権者、銀行は債務者の関係にあり、預金者は銀行に対して預金債権という債権を有しています。これを信託するためには預金債権を受託者に譲渡しなければなりませんが、預金債権は通常譲渡禁止の特約がついており譲渡できないので、信託財産とすることができません。
そこで、預金を信託しようとする場合には、預金を解約して手元現金として、その現金を信託財産とする方法をとります。当該預金全額を信託するのか、一部は手元に置いておき、その余を信託するのかは委託者(信託しようとする人)の自由な判断でお決めいただくことになります。具体的な信託の内容、特に受益権の内容等によって信託すべき金銭の額も変わってくることも考えられますので、関係者でよく相談され、また当事務所で面談での相談をお受けしていますのでご利用下さい。(2020.4.15回答)

もくじに戻る

Q3.家族に信託することを考えていますが、相談には何を準備して行けばよいですか?

まず、あなたが今ご心配なことがらと、信託によってこのようなことを実現したいという思いを、メモ書きでも箇条書きでも結構ですので書いてきていただくと、お話しをお聞かせいただく際に理解の助けとなります。ひょっとしたら、あなたの思いを実現するために、信託よりもよい方法やふさわしい方法があるかもしれません。
ときに、民事信託(家族信託)は何でもできる、万能だというようなニュアンスで語られることがないわけではありませんが、当事務所ではそのような言説には賛同しておりません。信託でできることも多いですが、できないこと、やってはいけないこともあります。
なお、信託しようとお考えの財産に不動産が含まれる場合、権利書と固定資産評価証明書(または固定資産納税通知書)をお持ち下さいますと具体的なお話しをさせていただく際の助けになります。(2020.4.14回答)

もくじに戻る

Q4.自宅を長男に信託しようと考えていますが、二男が「兄には任せられない」と反対しています。どうすればよいですか?

信託をされるときには、できるだけご家族みなさんの了解があることが望ましいです。
受託者である長男の財産管理に不審があるということであれば、二男に信託監督人もしくは受益者代理人になってもらい、信託事務(財産管理と受益者への給付等)を監督していただくことにより、二男の協力が得られるかも知れません。また、長男が財産を独り占めするのではないかという不審があるようでしたら、信託終了時の最終帰属者を長男、二男の共有とするなどの方法により二男の理解が得られるかも知れません。さらに、信託契約とは別に、遺言により二男に一定の財産を残して、将来相続に関して争いが生じないようにする方法も考えられます。いずれにしましても、ご家族の了解が得られる信託をお考えいただくことが大切です。(2020.4.13回答)

もくじに戻る

Q5.家族がおこなう民事信託と成年後見とはどう違うのですか?

民事信託(家族信託)は成年後見制度は全く別の制度です。ところが、どちらも家族が関わる財産の管理に関することなので、一般にはその違いがよくわからないという状況が生まれています。
成年後見制度にも種類がいくつかあり、ご本人の判断能力の程度により後見<保佐<補助の区別があります。また後見については、家庭裁判所によって後見人が選任される法定後見と、本人が元気なときに後見人を決めておく任意後見とがあります。
民事信託(家族信託)は、信託契約によって自分の財産(全部でなくても、特定の一部でも構いません)の管理を誰かに任せることです。成年後見は、後見人が本人の財産の全部の管理を行うものです。ただし、成年後見の場合には本人に対する身上保護という面が大切になりますが、民事信託(家族信託)においては、身上保護的な側面はありません。受益権の内容として、受益者(通常は委託者と同一)の療養看護に関する費用を支出するというようなことがあっても、それはあくまで財産上の給付という側面であり、受託者(信託財産の管理を任された者)が受益者の身上に配慮するということは契約にあらわれてきません。
民事信託と成年後見はどちらかを選ぶという関係にあるのではなく、あわせて利用する場合もあるでしょう。ご家庭の事情や資産の内容等により、最もふさわしい制度を活用されることをおすすめします。(2020.4.10回答)

もくじに戻る

Q6.受託者を長男と二男の二人とすることはできますか?

受託者を二人とすることは可能です。そのように考えるご家族内の事情もおありかと思います。
ただ、仮にそうした場合、受託者の行う信託事務に関する決定等を常に二人で行う必要があり、意見が相違するときには事実上困る場合もないわけではありません。そこで、受託者は極力お一人にすることがよろしいかと思います。
一人に任せきれない事情等がある場合には、もう一人に別の役割を担っていただくことが考えられます。例えば、受益者(委託者と同じケースが多いと思いますが)のために受託者に対する監督機能等を行使する「信託監督人」や、受益者のために受益者の権利を行使する「受益者代理人」になっていただくことです。ご家族の事情により柔軟な設計が可能となっています。(2020.4.9回答)

もくじに戻る

Q7.収益マンション(1室)を長女に信託しようと思いますが賃料は従来どおり私が受領できますか?

収益マンションを信託された場合、マンションの名義は受託者である長女に変更することになります。またマンションの賃貸人の地位もあなたから受託者に代わりますので、借主にその旨を通知するなどが必要となります。賃料は賃貸人となる受託者が受領することになり、例えば口座振り込みで入金がある場合には、新たな受託者名義の賃料振込口座を準備して借主に通知をする必要も出てきます。
賃料そのものの受領者は賃貸人である受託者となります。委託者であるあなたは、通常受益者になると思われますので、その受益権の内容として、毎月賃料相当額(受託者に報酬を支払う場合には、受託者報酬を差し引いた金額)を受託者が受益者に給付するということを決めておけば、そのように受託者が実行することになります。
信託契約書の内容として、賃料相当額を受益者であるあなたが受領できるように条項を設定することにより、希望を実現することができます。(2020.4.8回答)

もくじに戻る

Q8.自宅の管理を長男に信託した場合に、信託というのはいつ終わるのですか?

信託の終了時期は、委託者が信託契約の中で自由に決めることができます。委託者が死亡したときに信託を終了するというケースが多いのではないかと思われます。
また、委託者が死亡した場合にも信託は終了せず、その配偶者が受益者となって信託は継続し、さらに配偶者が死亡した場合には別の誰かが受益者となってさらに継続するというケースもあります。このような信託は「受益者連続型信託」と呼ばれています。一定の期間の制限はあるものの、長期に亘って委託者の意思を実現できることになります。
信託しようとお考えになられている方のお気持ち(どのようなことを実現したいのか)によって、信託の終了時期をお決めになるとよろしいかと思います。自分が今後認知症になって不動産等の管理・処分ができなくなるときに備えて信託をと考える場合には、委託者の生存中においてのみ信託を活用し、死亡によって信託は終了させるということでもよろしいかと考えます。(2020.4.7回答)

もくじに戻る

Q9.70歳の父親です。自宅を長男に信託しようかと考えています。自分が死んだ後に、受益者を残った妻に切り替えることはできるでしょうか?

信託設定当初は委託者であるあなたを受益者として、あなたが亡くなった後は受益者を奥様にすることは可能です。
手続きとしては、あなたが亡くなってから受益者を変更するのではなく、当初の信託契約の中にそのような条項を定めておきます。あなたが亡くなった場合には奥様が受益者となると定めておくことにより、特別な手続をとる必要はなく、奥様が受益者となります。受託者としては、その後奥様を受益者として受益権の内容である給付等をおこなっていくことになります。
なお、信託財産が不動産である場合、登記されている信託目録に記載の受益者の変更をする必要があります。(2020.4.6回答)

もくじに戻る

Q10.認知症になったとき、また自分が死んだ後、ミリちゃん(猫)のことが心配です。ミリちゃんを受益者に信託することはできますか?

信託契約の受益者を動物とする契約はできません。
しかし、あなたの思いを実現する方法はあると思います。
どなたかミリちゃんの世話をしていただける方にお世話を依頼し、そのための経費・ミリちゃんの食事代・その他の費用等を支払うという内容の信託契約を設定することは可能です。この場合、具体的に受託者として誰がふさわしいのか、また受益者としては誰がよいのか、また具体的な受益権の内容はどのようにすればよいかなど検討すべき事項はいくつかあります。
安心してこれからもミリちゃんと一緒に生活していけるように信託をご活用いただければと思います。(2020.4.3回答)

もくじに戻る

Q11.受託者になった場合、仕事が大変そうに思いますが支援してもらえますか?

受託者のなすべきことは、信託財産の種類(不動産であるとか金銭であるとか、また不動産であっても委託者が居住している自宅なのか収益マンションや賃貸アパートなのか等)により異なります。
当事務所では、家族による民事信託(家族信託)契約前のご相談から、契約後、実際に信託を動かしていく中でのご相談もお受けいたします。必要に応じて、継続的相談契約(顧問契約)をご利用いただくことも可能です。
また、受託者業務の中の特定の作業だけを委託していただくことも可能です。これは信託法28条に「信託事務の処理の第三者への委託」として、受託者が信託事務の処理を第三者に委託することができる旨規定されているもので、信託契約書においてもその旨を規定しておきます。ただし、受託者の行う事務の全てを第三者に委託するなど、信託の趣旨に反するような行為はできません。
第三者委託の場合には、委託先に対する費用がかかりますので、信託全体の収支の中で検討する必要があります。(2020.4.2回答)

もくじに戻る

Q12.民事信託契約書は公正証書でしなければならないのですか?

民事信託契約は、公正証書で作成されることを強く推奨します。民事信託契約は長期間継続することもありますので、その間に疑義等が生じないように、公正証書で作成しておくことが必要だと考えるからです。
当事務所では、契約書作成のお手伝いに併せて、公証人との事前打ち合わせ等も含めて支援をさせていただいております。
なお、公正証書で作成されない民事信託契約も有効(他の無効原因がない限り)ではありますが、金融機関に信託口口座を開設する場合等において公正証書にすることが求められる場合がありますのでご留意が必要です。(2020.4.1回答)

もくじに戻る

Q13.父が委託者で、長男である私が受託者を引き受ける予定なのですが、私に万一のことがあった場合に信託がどうなるのか心配です。

受託者をお引き受けになられて、後々のこともご心配ですね。
受託者が、事故等その他の事情により受託者として信託事務を処理できない状況になった場合には、受託者を変更することが可能です。ただし、変更の手続は煩瑣であるため、一般には、二次受託者をあらかじめ決めておいて、一定の事情が生じた場合には自動的に二次受託者が受託者となることができるように、当初の信託契約書に定めておくことが多いです。逆に言えば、万一の場合に備えて、二次受託者はぜひとも決めておかれた方がよろしいと言えます。(2020.4.1回答)

もくじに戻る

Q14.認知症対策に民事信託を利用するってどのようなことですか?

不動産をお持ちの方が認知症になられますと、不動産の処分はもちろんのこと、不動産の管理・修繕等ができなくなります。管理に関しては、事実行為としてご家族ができる場合もあると思われますが、例えば修繕をするのに工務店と契約をするといったことはできなくなります。
また、当該不動産を売却すること(施設入所のために売却する必要が将来生じることなどが考えられます)や、当該不動産を担保に金融機関から融資を受けるといったことはできなくなります。
そこで、将来の資産管理のため、もしくは処分のため、お元気な間に家族の方に信託をしておくということが想定できます。このような認知症対策としての家族による民事信託(家族信託)のご相談は近時増えてきています。(2020.3.31回答)

もくじに戻る

Q15.受益者は誰でもよいのですか?

受益者は信託財産から利益を受ける人ですから、委託者(信託をする人)が利益を与えようとする人なら誰でもよいことになります。今はまだ生まれていない、孫を受益者とすることも可能です。もちろん委託者自身を受益者とすることも可能です。通常はこの場合が多いと思われます。
委託者を受益者とする場合(「自益信託」と言います)は、実質上の財産の移動がありませんので、課税対象となりませんが、委託者以外の第三者(例え配偶者や子供であっても)を受益者とする場合(「他益信託」と言います)には課税対象となるため、一般に信託設定時(信託契約をすることを言います)には自益信託として、委託者を受益者とする場合がほとんどだと言えます。(2020.3.30回答)

もくじに戻る

Q16.受託者を頼める者が身内にいないのですが、司法書士に頼むことはできますか?

司法書士は、業務として受託者となることはできません。
そこで、あなたが信頼できる方がお身内ないしは身近なところにおられない場合、残念ですが、家族による民事信託(家族信託)の利用は断念するほかありません。
なお、このような場合に応じられるよう、全国の司法書士等が出資をして「ふくし信託株式会社」(管理型信託業│関東財務局長(信)第21号 令和4年7月22日登録【 https://www.fukushitrust.com/】 )を設立しております。この「ふくし信託株式会社」を受託者として、信託をご利用いただける可能性がひろがっておりますので、ぜひご相談下さい。(2020.3.29回答、2023.2.13修正)

もくじに戻る

Q17.信託財産は、全財産が対象になるのですか?

信託財産は、委託者(信託する人)のすべての財産である必要はありません。特定の財産、たとえば自宅の他に収益不動産がある場合、その収益不動産のみを信託の目的とすることが可能です。
ただし、一定の金銭も併せて信託の目的とするのは一般的です。これは当該不動産の管理に要する費用(固定資産税等)の支払に充てるためです。(2020.3.29回答)

もくじに戻る

Q18.受益者の死亡により信託が終了し、帰属権利者が残余財産の所有権を取得した後にその残余財産に含まれる亡受益者の居住用不動産を売却した場合、空き家の譲渡所得の特別控除の特例の適用を受けることができますか?

関連する東京国税局の最近の回答がありますので、参考としてご紹介します。
東京国税局は、特例の適用を受けることはできないと回答しています。その理由としては、空き家の譲渡所得の特別控除の特例については、租税特別措置法第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》に規定する特例のように、相続税法の規定により遺贈等による財産の取得とみなされる場合を対象に含む旨が規定されていないことを挙げています。
具体的な事案については、税理士等税務の専門家にご相談ください。また、今後は当事務所においても本回答の趣旨をふまえて民事信託支援業務をおこなってまいります。(2023.6.2回答)
【東京国税局回答】
信託契約における残余財産の帰属権利者として取得した土地等の譲渡に係る租税特別措置法第35条第3項に規定する被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の適用可否について(回答年月日:令和4年12月20日 回答者:東京国税局審理課長)
https://www.nta.go.jp/about/organization/tokyo/bunshokaito/joto-sanrin/221220/index.htm
【参考文献】
「信託契約の対象不動産を検討する際の実務上の留意点~令和4年12月20日東京国税局回答を受けて~」(JFD司法書士法人 司法書士福田秀樹、月刊登記情報No.739(2023年6月号)4頁)

もくじに戻る