民法の一部を改正する法律及び公証人法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う公証事務の取扱い等について(通達)平成17年2月9日法務省民総第348号

法務省民総第348号
平成17年2月9日
法務省民事局長
法 務 局 長 殿
地方法務局長  殿

民法の一部を改正する法律及び公証人法施行規則の一部を改正する省令の施行に伴う公証事務の取扱い等について(通達)

民法の一部を改正する法律(平成16年法律第147号。以下「改正法」という。)が成立し,公布の日(平成16年12月1日)から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされるとともに,公証人法施行規則の一部を改正する省令(平成17年法務省令第14号。以下「改正省令」という。)が平成17年2月14日から施行されることとなりましたので,これに伴う公証事務の取扱い等については,下記の点に留意するよう,貴管下公証人及び公証事務を取り扱う法務事務官に周知方取り計らい願います。
なお,本通達中,「新民法」とあるのは改正法による改正後の民法(明治29年法律第89号)を,「規則」とあるのは公証人法施行規則(昭和24年法務府令第9号)をいいます。

第1 改正法の概要について

改正法は,保証契約の内容の適正化の観点から,保証人の保護を図るため,貸金等根保証契約について極度額,元本確定期日等に関する規定を新設することその他の保証契約に関する規定の整備を行うとともに,民法を国民に理解しやすいものとするため,その表記を現代語化することを目的として,制定されたものである。
改正事項のうち公証実務に関連するものは,次のとおりである。

1 保証関係
改正法は,貸金等根保証契約を対象として,極度額の定めのない根保証契約を無効とするとともに,その保証期間を制限することを主な内容とし,さらに,保証契約一般を対象として,書面によらない保証契約を無効としている。
(1)貸金等根保証契約の意義
「貸金等根保証契約」に該当するためには,①根保証契約(一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約をいう。以下同じ。)であること,②主たる債務の範囲に貸金等債務(金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務をいう。以下同じ。)が含まれるものであること,③個人を保証人とするものであることが必要であるとされた(新民法第465条の2第1項)。
(2)極度額の定め
貸金等根保証契約は,極度額を定めなければ効力を生じないとされた(新民法第465条の2第2項)。
なお,この極度額は,主たる債務の元本だけでなく,その利息損害金等(同法第447条第1項参照)を含むものとして定めなければならず,かつ,保証債務についてのみ定められた違約金等がある場合(同条第2項参照)には,これも含むものとして定めなければならないとされた(同法第465条の2第1項)。
(3)元本確定期日の定め(保証期間の制限)
ア 契約締結時の定め
貸金等根保証契約において元本確定期日を定める場合には,その期日は,貸金等根保証契約の締結の日から5年以内でなければならないとされた(新民法第465条の3第1項)。
また,貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(貸金等根保証契約を締結した日から5年を経過する日より後の日を元本確定期日として定めた場合を含む。)には,その期日は,当然に,貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とするとされた(同条第2項)。したがって,貸金等根保証契約においては,契約締結時において,必ず元本確定期日が定まることになる。
イ 契約締結後の変更
元本確定期日を契約締結後に変更する場合には,変更をした日から5年以内の日を変更後の元本確定期日としなければならないとされた(同条第3項本文)。「変更をした日から」とは,元本確定期日の変更に係る法律行為をした日からという意味であるから,貸金等根保証契約の締結時から5年を超える保証期間を確保する目的で,契約締結時にいわゆる自動更新の約定を付しても,その約定は無効である。ただし,元本確定期日の前2か月以内という近接した時期にその変更(いわゆる保証期間の更新)を行う場合については,変更をした日から5年以内という制限が緩和され,変更前の元本確定期日から5年以内の日を変更後の元本確定期日とすることができるとされた(同項ただし書)。
(4)元本確定事由
貸金等根保証契約は,①主たる債務者若しくは保証人の財産に対する強制執行若しくは担保権の実行の申立て,②主たる債務者若しくは保証人に対する破産手続開始の決定又は③主たる債務者若しくは保革人の死亡により,元本が確定するとされた(新民法第465条の4)。
(5) 法人の根保証契約に関する特則
保証人が法人である根保証契約であって,その主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものが一定の要件(①極度額の定めがあること,②元本確定期日の定めがあること並びに③元本確定期日の定や及びその変更が新民法第465条の3第1項及び第3項の規律に従ったものであること。)を具備していないときは,その法人が個人との間で締結する求償権の保証契約は,効力を生じないとされた(同法第465条の5)。
(6)保証契約の要式行為化
保証契約(貸金等根保証契約又は根保証契約に限られない。)は,書面でしなければ,その効力を生じないとされた(新民法第446条第2項)。
なお,保証契約がその内容を記録した電磁的記録こよってされた場合については,これを書面によってされたものとみなすとされた(同条第3項)。
 さらに,これらの書面及び電磁的記録に関する規定は,貸金等根保証契約における極度額め定め,元本確定期日の定め及びその変更について準用され,書面への記載等がされていなければ,その定めの効力が生じないとされた(同法第465条の2第2項から第4項まで)。
(7)経過措置
ア 極度額の定め及び保証契約の要式行為化関係
貸金等根保証契約の極度額の定めに関する新民法第465条の2の規定(前記(2)参照)並びに保証契約の要式行為化に関する同第446条第2項及び第3項の規定(前記(6)参照)は,改正法の施行前に締結された保証契約には,適用されないとされた(改正法附則第3粂及び第4条第1項)。
イ 元本確定期日の定め関係
貸金等根保証契約の元本確定期日に関する新民法第465条の3の規定(前記(3)参照)については,改正法の施行日から3年を経過しても元本が確定しない(元本確定期日が改正法の施行日から3年を経過する日より後に定められている,又は元本確定期日の定めがない)既存の契約は,施行日から3年を経過する日が元本確定期日となるとされた(改正法附則第4条第2項第1号,第3項)。ただし,既存の契約であって極度額及び元本確定期日
の定めがあるもののうち施行日から5年を経過しでも元本が確定しないものは,施行日から5年を経過した日が元本確定期日となるとされた(改正法附則第4条第2項第2号)。
また,既存の契約であって貸金等根保証契約に当たるものについては,改正法の施行後は,元本確定期日を更に延ばす変更をすることができないとされた(同条第4項)。
ウ 元本確定事由関係
貸金等根保証契約の元本確定事由に関する新民法第465条の4の規定(前記(4)参照)は,既存の根保証契約であって貸金等根保証契約に当たるものにも,適用されるとされた(改正法附則第2条)。ただし,施行日前に元本確定事由が既に生じていた場合については,改正法の施行日にその事由が生じたものとみなして新民法第465条の4の規定を適用するとされた(改正法附則第4条第5項)。
エ 法人の根保証契約に関する特則関係
法人の根保証に関する特則である新民法第465条の5の規定(前記(5)参照)は,求償権の保証をした個人が負うこととなる責任の範囲を,法人の根保証における主たる債務の元本が施行日から3年から5年まで以内に発生したものに限定する措置が講じられた(改正法附則第4条第7項及び第8項)。

2 現代語化関係
民法典の規定のうち第1編から第3編までの部分は,片仮名文語体という条文の形式や用語の大半に手が加えられないまま,現在に至っていた。このため,日常用語との乖離が著しく,一般には極めて分かりにくいものも多数存在し,私人間の法律関係を規律する一般法・基本法としてふさわしくないとの指摘もあり,その早急な是正が求められていた。そこで,改正法は,すべての規定を平仮名口語体に改めるとともに,現代では一般に用いられていない用語を他の適当なものに置き換える等の現代語化を図っている。
この現代語化により民法第1編第2章第2節の節名が「能力」から「行為能力」と明確化されたことに伴い,公証人法(明治41年法律第53号)第26条の規定する「能力」も「行為能力」に改めるとされた(改正法附則第9条第1号)。
第2 改正省令による規則第13条の2の改正について
保証人の保護を図るために保証契約の内容の適正化を内容とする改正法が制定されたことを受け,公証事務についても,同様の観点から,改正省令が制定され規則第13条の2第1項の通知(以下「事後通知」という。)は,書面でしなければならないとされるとともに,当該通知の対象となる公正証書の執行認諾文書の記載の有無に応じて,通知の書式が定められた(改正省令による改正後の規則第13条の2第2項,附録第1号の2及び同号の3)。
事後通知は,代理人の嘱託により公正証書が作成された場合について,公正証書作成の事実を本人に知らせるために行うものであり,公証制度に対する信用を害することのないよう,次の点に留意し,監督に遺憾のないようにされたい。
なお,通知の書式に記載された執行認諾文言の法的な意味を本人に理解させなければならないことは,代理人の嘱託により公正証書が作成される場合だけでなく,本人自身の嘱託による場合においても同様であるから,この場合も,公証人において,適宜,口頭又は書面により,本人に対しこれを説明する必要がある。
1 事後通知は,規則第13条の2第1項ただし書の適用がある場合を除き,例外なく,しなければならない。
2 事後通知は,公証人において書面を交付し,又は送付して行うべきものであり,嘱託人である代理人等を介して行うことは,許されない。
3 事後通知の実施を怠り,規則第13条の2に違反した公証人については,公証人法及び規則に基づく監督及び懲戒の対象となり得る。
4 事後通知の書式については,附録第1号の2又は同号の3の様式に従うほか,改正省令の制定の趣旨にかんがみ,問い合わせ先(公証人役場住所等)を明らかにするとともに,例えば,通知の対象となる債務者が保証人である場合には,「証書の件名」欄に「あなたは,何 某 様の保証人となっております。」等を付記することが望ましい。
なお,附録第1号の2及び同号の3の様式には記載されていないが,通知を受けた本人に対する便宜等のため,「この公正証書の内容に疑問のある方は,実印を御持参の上,公正証書原本の閲覧をお申出下さい(代理人による閲覧の場合は,あなたの印鑑証明書付きの委任状及び当該代理人の印鑑証明書及び実印が必要となります。)。」等の適宜の記載をすることは,差し支えない。
第3 規則第13条の釈明方法について
記則第13条第1項の釈明は,公正証書の内容となる法律行為が有効であるかどうか等(公証人法第26条参照)について存在する具体的疑い(最高裁判所平成6年(オ)第1886号平成9年9月4日第1小法廷判決・民集51巻8号3718頁参照)の内容・程度等に応じて,適宜の方法でしなければならない。
例えば,本人が主たる債務者及び保証人である債務確認公正証書をそれぞれの代理人の嘱託により作成する場合において,主たる債務者及び保証人の印鑑証明書は提出されているものの,委任状の筆跡が同一人のものであることや,委任状の記載がカーボン紙を用いて転写されたものであること等が窺われ,その結果,無権代理が具体的に疑われるようなときは,作成の嘱託のあった時点において,本人に対し,委任の意思の確認を書面等で公証人が直接行うなどした上で,嘱託に応じ,又はこれを拒絶すべきである。
第4 印鑑証明書の有効期間について
嘱託人の人違いでないこと又は証書の真正であることを証明するために提出する印鑑証明書その他に関する証明書(公証人法第28条第2項及び第32条第2項(同法第33条第2項において準用する場合を含む。)(これらの規定を同法第60条(同法第62条ノ3第4項において準用する場合を含む。)において準用する場合を含む。))は,作成後3か月以内のものでなければならない。
この取扱いは,平成17年4月1日から実施するものとする。