破産法の施行た伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)平成16年12月16日法務省民二第3354号

法務省民二第3354号
平成16年12月16日
法務局長殿
地方法務局長殿
法務省民事局長

破産法の施行た伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)

破産法(平成16年法律第75号),破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成16年法律第76号),破産規則(平成16年最高裁判所規則第14号)及び不動産登記法施行細則の一部を改正する省令(平成16年法務省令第88号)が平成17年1月1日から施行されることとなりましたので,これに伴う不動産登記事務の取扱いについては,下記の点に留意するよう,貴管下登記官に周知方取り計らい願います。
なお,本通達中,「新破産法1とあるのは上記破産法を,「整備法」とあるのは破産法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律を,「法」とあるのは整備法による改正後の不動産登記法(明治32年法律第24号)を「細則」とあるのは改正後の不動産登記法施行細則(明治32年司法省令第11号を),「規則」とあるのは破産規則をいいます。

第1 不動産登記に関連する改正の概要

新破産法は,社会経済情勢の変化とこれに伴う破産事件の著しい増加にかんがみ, 破産手続の迅速化及び合理化を図るとともに,その実効性及び公正さを確保するため,現行の破産法(大正11年法律第71号。以下「旧破産法」という。)を廃止して,新たに制定されたものであり,これに伴い,新破産法第14条等の規定に基づき,破産手続等に関し必要な事項を定める規則が新たに制定された。
改正事項のうち不動産登記に関連するものは,次のとおりである。
1 登記の嘱託の権限
新破産法においては,破産手続に関する登記の嘱託が裁判所書記官の権限とされた(新破産法第257条から第259条まで)。
2 破産者が法人である場合の破産の登記等の廃止
旧破産法においては,破産財団に属する財産の管理処分権が破産管財人に移転し,破産者がその権限を喪失していることや,破産手続が終了したため破産者が
その権限を復活したことなどを公示するという趣旨から,破産財団に属する不動産に関する権利で登記をしたものについて,破産の登記又は破産取消し,破産廃止,強制和議取消し若しくは破産終結の登記をすることとされていた(旧破産法第120条,第121条)。しかし,新破産法においては,破産者が法人である場合には,法人登記簿に破産手続開始の登記等がされ(新破産法第257条第1項,第7項),第三者は,これにより当該法人が破産手続開始の決定等を受けた事実を知ることができることから,破産者が法人である場合における破産財団に属する権利で登記がされたものに関する破産の登記又は破産取消し,破産廃止若しくは破産終結の登記の制度が廃止された(新破産法第258条第1項参照)。
3 保全処分の制度の新設
否認権のための保全処分(新破産法第171条)の制度及び役員の財産に対する保全処分(新破産法第177条)の制度が新設されるとともに,これらの処分に関する登記の制度が創設された(新破産法第259条)。
4 否認に関する登記手続の整備
否認権の行使によって取り戻した財産について破産管財人による任意売却等を原因とする破産者から第三者への所有権移転登記等をする際の否認の登記の抹消
等,否認に関する登記手続が整備された(新破産法第260条)。
5 担保権消滅の制度の新設
担保権消滅の制度が新設されるとともに,同制度により消滅した担保権に係る登記の抹消に関する手続が創設された(新破産法第190条第5項)。

第2 個人の破産手続に関する登記

1 破産手続開始の登記の嘱託
(1)裁判所書記官は,個人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において,破産財団に属する権利で登記がされたものがあることを知ったときは,職権で,遅滞なく,破産手続開始の登記を登記所に嘱託しなければならないとされた(新破産法第258条第1項第2号)。
(2)裁判所書記官は,相続財産について破産手続開始の決定があった場合においても,破産財団に属する権利で登記されたものがあることを知ったときは,(1)と同様の手続を行うものとするとされた(新破産法258条第4項)。
(3)破産手続開始の登記の嘱託書には,登記原因を証する書面として,破産手続開始の決定の裁判書の謄本(裁判所書記官が原本の内容と同一である旨を認証したものをいう。以下同じ。)を添付しなければならない(規則第79条の表第1項)。
(4)破産手続開始の登記の嘱託書における登記原因の記載は,「何地方裁判所(何支部)破産手続開始決定」とし,その日付は,破産手続開始の決定がされた年月日時(規則第19条第2項参照)とする。
2 破産手続開始の決定の取消し等の嘱託
(1)裁判所書記官は,個人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において,次のアからウまでに掲げるときは,職権で,遅滞なく,それぞれ
に定める登記又は登記の抹消を嘱託しなければならないとされた(新破産法第258条第2項,第3項)。
ア 破産手続開始の決定の取消し若しくは破産手続廃止の決定が確定したとき,又は破産手続終結の決定があったとき(新破産法第258条第2項) 破産
手続開始の決定の取消しの登記,破産手続廃止の登記又は破産手続終結の登記
イ 破産手続顔始の登記がされた権利について,新破産法第34条第4項の決定により破産財団に属しないこととされたとき(新破産法第258条第3項前段) 破産手続開始の登記の抹消
ウ 破産手続開始の登記がされた権利についで破産管財人がその権利を放棄し,その登記の抹消の嘱託の申立てをしたとき(新破産法第258条第3項後段) 破産手続開始の登記の抹消
(2)裁判所書記官は,相続財産について破産手続開始の決定があった場合においても,(1)ア又はウに掲げるときは,(1)と同様とするとされた(新破産法第258粂第4項)。
(3)(1)又は(2)の場合における登記の嘱託書における登記の目的,登記原因及びその日付の記載並びに嘱託書に添付すべき登記原因を証する書面は,それぞれ次の表に掲げるとおりである(規則第79条の表第2項から第7項まで)。
(表省略)

第3 保全処分に関する登記

1 保全処分の登記の嘱託
(1)裁判所書記官は,債務者の財産に関する保全処分(新破産法第28条第1項(新破産法第33条第2項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分をいう。以下同じ。),否認権のための保全処分(新破産法第171条第1項(同条第7項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分をいう。以下同じ。)又は役員の財産に対する保全処分(債務者である法人の理事,取締役,執行役,監事,監査役,清算人又はこれらに準ずる者の財産に対する新破産法第177条第1項又は第2項(同条第7項において準用する場合を含む。以下同じ。)の規定による保全処分をいう。以下同じ。)があった場合には,職権で,遅滞なく,当該保全処分の登記を嘱託しなければならないとされた(新破産法第259条第1項)。
(2)保全処分の登記の嘱託書には,登記原因を証する書面として,当該保全処分の裁判書の謄本を添付しなければならない(規則第80条第1項)。
(3)保全処分の登記の嘱託書における登記原因の記載は,債務者の財産に関する保全処分については「何地方裁判所(何支部)破産財団保全の仮処分命令」と,否認権のための保全処分については「何地方裁判所(何支部)否認権保全の仮処分(又は仮差押)命令」と,新破産法第177条第1項の保全処分については「何地方裁判所(何支部)役員財産保全の仮処分(又は仮差押)命令」と,新破産法第177条第2項の保全処分については「何地方裁判所(何支部)開始前役員財産保全の仮処分(又は仮差押)命令」とする。
なお,登記原因の日付は.当該仮処分(又は仮差押)命令がされた日である。
2 保全処分の登記の変更の登記又は保全処分の登由の抹消の嘱託
1(l)の保全処分の変更若しくは取消しがあった場合(新破産法第28条第2項,第171条第3項,第177条第3項)又は1(1)の保全処分が効力を失っ た場合には,裁判所書記官は,職権で,遅滞なく,当該保全処分の登記の変更の登記又は当該保全処分の登記の抹消を嘱託しなければならないとされた(新破産法第259条第2項において準用する同条第1項)。
(1)保全処分の変更又は取消しがあった場合
ア 保全処分の登記の変更の登記又は保全処分の登記の抹消の嘱託書には,登記原因を証する書面として,保全処分を変更し,又は取り消す旨の決定の裁判書の謄本を添付しなければならない(親則第80条第2項)。
イ 保全処分の登記の変更の登記又は保全処分の登記の抹消の嘱託書における登記原因の記載は,「何地方裁判所(何支部)変更(又は取消)」とする。
なお,登記原因の日付は,当該保全処分を変更し,又は取り消す旨の決定がされた日である。

(2)保全処分が効力を失った場合
ア 保全処分が効力を失った場合とは,保全処分が取消し以外の原因によって失効した場合であって,その主な例は,次のとおりである。
(ア)破産手続開始の申立てが取り下げられたとき(新破産法第29条),破産手続開始の決定の取消し苦しくは破産手続廃止の決定(新破産法第217条第1項,第218条第1項)が確定したとき,又は破産手続終結の決定がされたとき(新破産法第220条第1項)。
(イ)債務者の財産に関する保全処分が命じられた場合において,破産手続開始の申立てを棄却する決定がされたとき(新破産法第30条第1項参照),又は破産管財人がその権利を放棄したとき。
(ウ)否認権のための保全処分が命じられた場合において,破産手続開始の申立てを棄却する決定がされたとき(新破産法第30条第1項参照),又は破産管財人が破産手続開始の決定後1か月以内に当該保全処分に係る手続を続行しないとき(新破産法第172条第2項)。
(エ〉破産手続開始の決定前に役員の財産に対する保全処分がされた場合において,破産手続開始の申立てを棄却する決定がされたとき(新破産法第30条第1項参照)。
イ アの場合における保全処分の登記の抹消の嘱託書には,登記原因を証する書面として,当該保全処分が効力を失ったことを証する書面を添付しなければならない(規則第80条第2項)
ウ アの場合における保全処分の登記の抹消の嘱託書における登記原因及びその日付の記載並びに嘱託書に添付すべき当該保全処分が効力を失ったことを
証する書面は,それぞれ次の表に掲げるとおりとする。
(表省略)

第4 否認の登記

1 否認の登記の申請
破産管財人は,破産財団を原状に復させるため(新破産法第167条第1項),破産裁判所に対し,訴え,否認の請求又は抗弁によって,否認権を行使することができるとされ,(新破産法第173条),登記の原因である行為が否認されたとき,又は登記が否認されたときは,破産管財人は,否認の登記を申請しなければならないとされた(新破産法第260条第1項)。

(1)否認の登記の申請書の添付書面
ア 否認の登記の申請書には,登記原因を証する書面として,否認の訴えに係る請求を認容する判決(否認の請求を認容する決定を認可する確定判決(新破産法第175条第4項前段)を含む。)の判決書の正本及び確定証明書又は否認の請求を認容する決定の裁判書の正本及び確定証明書(以下「判決等」という。)を添付しなければならない。イ 否認の登記の申請書には,申請人が破産管財人であることを証する書面として,破産管財人の選任を証する書面(規則第23条第3項)又は破産者が法人である場合には法人登記簿謄本(新破産法第257条第2項参照)を添
付しなければならない。

(2)否認の登記の申請書の記載
ア 否認の登記の申請書における登記の目的の記載は,登記の原因である行為の否認の場合には,例えば「何番所有権移転登記原因の破産法による否認」とし,登記の否認の場合には,例えば「何番所有権移転登記の破産法による否認」とする。
イ 否認の登記の申請書における登記原因の記載は,「年月日判決(又は決定)」とする。
なお,登記原因の日付は,判決又は決定が確定した日である。

(3)転得者に係る登記がある場合の否認の登記の申請
ア 否認権の行使は,転得者に対してもすることができるとされている(新破産法第170条)。登記簿上,転得者に係る登記(破産者から利益を受けた者(以下「受益者」 という。)の登記に係る権利を目的とする第三者の権利に関する登記を除く。)がある場合には,転得者に対する否認の登記の申請のみを受理することができる。
イ アの転得者に対する否認の登記がされていない場合において,受益者に係る登記について否認の登記の申請があったときは,当該登記の申請は,法第49条第2号の親定により却下するものとする。これに対し,当該転得者に対する否認の登記がされている場合には,当該否認の登記に係る権利は,破産財団に復している(新破産法第167条第1項)から,受益者に係る登記について否認の登記の申請があったときは,法第49条第6号の規定により却下するものとする。
ウ アの転得者に対する否認の登記を申請する場合の登記義務者は,当該転得者であり,登記権利者は,破産管財人である。
エ アの転得者に対する否認の登記の申請書には,登記原因を証する書面として,転得者を被告とする否認の訴え等に係る判決等を添付しなければならない。
オ アの転得者に対する否認の登記の申請書における登記の目的の記載は,登記の原因である行為の否認の場合には,例えば「何番何権登記名義人何某(転得者を記載する。)に対する何番所有権移転(受益者に係る登記を記載する。)登記原因の破産法による否認」とし,登記の否認の場合には,例えば「何番何権登記名義人何某(転得者を記載する。)に対する何番所有権移転(受益者に係る登記を記載する。)登記の破産法による否認」とする。
なお,この登記原因の記載は,「年月日判決(又は決定)」とする。
カ 転得者に係る登記が受益者の登記に係る権利を目的とする第三者の権利に関する登記である場合には,当該転得者に対する否認の登記がされていないときであっでも,受益者に係る登記について否認の登記の申請をすることができる。
キ カの転得者に対する否認の登記の申請をする場合の申請書における登記の目的は,登記の原因である行為の否認のときは,例えば「何番何権登記名義人何某(転得者を記載する。)に対する何番所有権移転(受益者に係る登記を記載する。)登記原因の破産法による否認」とし,登記の否認のときは,例えば「何番何権登記名義人何某(転得者を記載する。)に対する何番所有権移転(受益者に係る登記を記載する。)登記の破産法による否認」とする。

2 登記官の職権による否認の登記の抹消
否認の登記がされている場合において,否認の登記に係る権利に関する登記をするときは,登記官は,職権で,①当該否認の登記,②否認された行為を登記原
因とする登記又は否認された登記.③②の登記に後れる登記があるときは当該登記を抹消しなければならないとされた(新破産法第260条第2項)。

(1)否認の登記に係る権利に関する登記
「否認の登記に係る権利に関する登記をするとき」(新破産法第260条第2項)とは,否認の効果が確定することとなる次の場合をいう。
ア 破産管財人による当該権利の任意売却に伴う破産者から第三者への権利の移転登記をする場合(新破産法第78条第2項第1号参照)
イ 民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によってされた競売による売却に伴う破産者から第三者への権利の移転の登記をする場合(新破産法第184条第1項参照)

(2)否認の登記
抹消すべき「否認の登記」(新破産法第260条第2項第1号)とは,受益者に係る登記についての否認の登記のほか,転得者に対する否認の登記を含む。

(3)否認された行為を登牢原因とする登記又は否認された登記抹消すべき「否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記」(新破産法第260条第2項第2号)とは,登記原因である行為が否認された場合又は登記が否認された場合における当該否認の登記の対象となった登記をいう。例えば,破産者から受益者に不動産が売却された場合に当該売買が否認されたときの当該受益者への所有権の移転の登記等が,これに当たる。

(4)否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記に後れる登記抹消すべき「前号の登記(否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記)に後れる登記」(新破産法第260条第2項第3号)とは,(3)の否認された行為を登記原因とする登記又は否認きれた登記の後にされた登記のうち,破産手続の関係においてその効力を主張することができるものを除いたものであって,当該登記について否認の登記がされているものをいう(同条第3項参照)。例えば,破産者から受益者へ所有権の移転の登記がされた後,さらに,転得者へ所有権の移転の登記がされている場合において,当該転得者に対する否認の登記がされているときの当該転得者への所有権の移転の登記等が,これに当たる。
この場合には,登記官は,否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記に後れる登記が,否認による当該不動産の破産財団への復帰に対抗するこそができないものであることを登記簿の記載から客観的に判断することができることから,職権で,当該登記を抹消することとされた。

3 登記官の職権による所有権の移転の登記
否認の登記に係る権利に関する登記をするときに,否認された行為の後,否認の登記がされるまでの間に,否認された行為を登記原因とする登記又は否認され
た登記に係る権利を目的としてされた第三者の権利に関する登記であって,破産手続の関係においてその効力を主張することができるものがされているときは,登記官は,職権で,当該否認の登記を抹消するとともに,否認された行為を原因とする登記等の抹消に代えて,受益者から破産者への当該登記に係る権利の移転の登記をしなければならないとされた(新破産法第260条第3項)。
この場合の「否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記に係る権利を目的としてされた第三者の権利に関する登記であって,破産手続の関係に
おいてその効力を主張することができるもの」とは,当該第三者に対する否認の登記がされていない場合をいい,例えが,破産者から受益者へ所有権の移転の登記がされた後,当該所有権を目的とする抵当権の設定の登記がされている場合において,当該抵当権の登記名義人に対する否認の登記がされていないときの当該抵当権の設定の登記等をいう。

4 否認の登記の抹消の嘱託

(1)否認の登記の抹消の嘱託手続の整備
裁判所書記官は,否認の登記がされている場合において,次に掲げるときは,職権で,遅滞なく,当該否認の登記の抹消を嘱託しなければならないとされた
(新破産法第260条第4項)。この場合には,登記官が職権で否認の登記を抹消することはできない。
ア 破産手続開始の決定の取消し又は破産手続廃止の決定が確定したとき。
イ 破産手続終結の決定があったとき。
ウ 破産管財人が否認された行為を登記原因とする登記又は否認された登記に係る権利を放棄し,否認の登記の抹消の嘱託の申立てをしたとき。

(2)否認の登記の抹消の嘱託書の添付書面
否認の登記の抹消の嘱託書には,(1)のア又はイに掲げる場合にあっては破産手続開始の決定を取り消す決定,破産手続廃止の決定又は破産手続終結の決定の裁判書の謄本を,(1)のウに掲げる場合にあっては否認の登記の抹消の嘱託の申立てがされたことを証する書面を添付しなければならない(規則第81条第1項,第3項)。

(3)否認の登記の抹消の登記事項の記載
否認の登記の抹消の登記原因及びその日付は,それぞれ次の表に掲げるとおりとする。               
(表省略)

第5 破産財団の換価の登記

1 破産財団の換価手続
破産手続開始の決定があった場合には,破産財団に属する財産の換価は,破産管財人が行う任意売却の方法(新破産法第78条第2項第1号及び第2号)によるほか,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定によって行うとされた(新破産法第184条第1項)。また,破産管財人は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により,別除権の目的である財産の換価を行うことができるとされた(新破産法第184条第2項)。

2 破産財団に属する財産の換価の登記手続

(1)破産財団に属する不動産等の任意売却による登記の申請
ア 破産財団に属する不動産に関する物権及び登記すべき日本船舶(以下「不動産等」という。)についての管理及び処分をする権利は,破産管財人に専属するとされている(新破産法第78条第1項)ので,当該不動産等を任意売却する場合の登記の申請は,破産管財人が登記権利者と共同してしなければならない。
イ 任意売却による登記の申請書の添付書面
(ア)任意売却による登記の申請においては,破産管財人であることを証する書面として,破産管財人の選任を証する書面(規則第23条第3項)又は破産者が法人である場合には法人登記簿謄本(新破産法第257条第2項参照)を添付しなければならない。
(イ)任意売却による登記の申請書には,破産管財人の印鑑証明書を添付しなければならない。
なお,裁判所書記官は、破産管財人があらかじめその職務のために使用する印鑑を裁判所に提出した場合において,当該破産管財人が破産財団に属する不動産についての権利に関する登記を申請するために登記所に提出する印鑑の証明を請求したときは、当該破産管財人に係る破産管財人の選任を証する書面に、当該請求に係る印鑑が裁判所に提出された印鑑と相違ないことを証明する旨をも記載して、これを交付するとされた(規則第23条第4項)。そこで,破産管財人の印鑑証明書については,登記所,裁判所書記官又は住所地の市町村長若しくは区長の作成した印鑑証明書のいずれでも差し支えないとされた(細則第42条第4項)。
(ウ)破産管財人が不動産等の任意売却をする場合には,裁判所の許可を得なければならないとされている(新破産法第78条第2項第1号)ことから,任意売却による登記の申請書には,第三者が許可したことを証する書面(法第35条第1項第4号)として,裁判所の許可書を添付しなければならない。
(エ)破産管財人が不動産等の任意売却をする場合には,当該不動産等の登記済証の添付は不要である(昭和34年5月12日付け民事甲第929号当職通達参照)。

(2)破産財団に属する不動産等の民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に基づく換価の登記手続
ア 破産財団に属する不動産等の換価を民事執行法等に基づく強制競売手続又は担保権の実行手続により行う場合(新破産法第184条第1項)には,執行裁判所における裁判所書記官の嘱託により強制競売の開始決定(又は担保権の実行としての競売の開始決定)に係る差押えの登記がされ(民事執行法第48条,第188条),売却許可決定に基づき買受人が代金を納付したときに,裁判所書記官から競売による売却の登記の嘱託がされ(同法第82条,第188粂),これにより売却の登記がされることになる。
イ 破産管財人が,別除権の目的である不動産等の換価をする場合(新破産法第184条第2項)も,アと同様の手続による。

(3)破産財団に属する不動産等の換価による登記に伴う破産手続開始の登記の抹消等
ア 破産財団に属する不動産等を破産管財人が任意売却した場合には,破産手続開始の登記の効果が失われることから,裁判所書記官は,破産管財人の申立てにより,当該破産手続開始の登記の抹消の嘱託をすることができる(昭和32年3月20日付け民事甲第542号当職通達参照)。
イ 破産財団に属する不動産等を民事執行法その他強制執行の手続に関する法令に基づく強制競売手続又は担保権の実行手続によって換価した場合には,売却による権利の移転の登記の嘱託とともに,裁判所書記官から破産手続開始の登記の抹消の嘱託がされる(昭和32年2月2日付け民事甲第210号当職通達参照)。
ウ ア又はイによる破産手続開始の登記の抹消の嘱託は,不動産等の売却による権利の移転の登記がされた後,「売却」を登記原因としてするものであり,登記原因の日付は,任意売却の日付と一致していなければならない。

3 保全管理人による手続
債務者(法人である場合に限る。)の財産の確保のために特に必要があると認めるときに,破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間,保全管理人によ
る管理を命ずる保全管理命令の制度が創設された(新破産法第91条)。保全管理命令が発せられたときの保全管理人による債務者の財産の換価手続及びその登
記手続は,1並びに2(1)及び(2)の例によるものとする(新破産法第93条第1項,第3項,規則第29条)。

第6 担保権消滅の登記
1 担保権消滅の制度の創設
破産手続開始の時において破産財団に属する財産の上に特別の先取特権,質権,抵当権又は商事留置権(以下「担保権」という。)が存する場合において,当該
財産を任意に売却して当該担保権を消滅させるごとが破産債権者の一般の利益に適合するときは,破産管財人は,裁判所の許可を得て,当該財産を任意売却し,その売却によって取得することができる金銭(以下「売得金」という。)の額(売得金の一部を破産財団に組み入れようとする場合にあっては,売得金の額から組み入れようとする金顔を控除した額)を裁判所に納付することにより,当該財産の上に存するすべての担保権を消滅させることができるとされた(新破産法第186条第1項)。

2 消滅した担保権に係る登記の抹消の嘱託

(1)裁判所書記官は,新破産法第190条第1項第1号の場合にあっては同号の規定による金銭の納付,同項第2号の場合にあっては同号の規定による金銭の納付及び同条第3項の規定による金銭の納付があったときは,消滅した担保権に係る登記の抹消を嘱託しなければならないとされた(新破産法第190条第5項)。                
(2)(1)の登記の抹消の嘱託書には,担保権消滅の許可の決定(新破産法第189条第1項)の裁判書の謄本を添付しなければならない(規則第61条第3項)。

(3)(1)の登記の抹消の嘱託書における登記原因の記載は,「破産法による担保権消滅」とする。
なお,登記原因の日付は,(1)の金銭の納付があった日である(新破産法第190条第4項参照)。

第7 その他

1破産手続開始の決定による根抵当権の元本確定の登記の申請

(1)整備法により改正された民法(明治29年法律第89号)第398条ノ20条第1項第4号の規定により,債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたことにより根抵当権の元本が確定した場合には,根抵当権者は,申請書に破産手続開始の決定の裁判書の謄本を添付して,単独で,根抵当権の元本の確定の登記を申請することができるとされた(法第119条ノ11本文)。

(2)破産手続開始の決定による根抵当権の元本の確定は,破産手続開始の決定の効力が消滅したときは,なかったものとみなされる(民法第398条ノ20第2項本文)が,確定したことを前提に,根抵当権又はこれを目的とする権利を取得した第三者があるときは,確定の効力は覆滅しない(同項ただし書)ため,(1)の単独申請は,当該根抵当権又はこれを目的とする権利の取得の登記とともにする場合に限定して認めることとされた(法第119条ノ11ただし書)。

2 整備法による民事再生法及び会社更生法の改正に伴う不動産登記事務の取扱い
整備法により,民事再生法(平成11年法律第225号)及び会社更生法(平成14年法律第154号)も併せて改正された。これに伴い,平成12年3月31日付け民三第839号当職通達及び平成15年3月31日付け民二第940号当職通達による従前の取扱いを次のとおり変更する。

(1)否認に関する登記
ア 登記官の職権による登記
登記官の職権による否認の登記の抹消及び所有権の移転の登記は,第4の2及び3の例によるものとする(整備法による改正後の民事再生法(以下「改正民事再生法」という。)第13条第2項,第3項及び第5項,整備法による改正後の会社更生法(以下「改正会社更生法」という。)第262条第2項,第3項及び第5項)。
イ 否認の登記の抹消の嘱託
裁判所書記官による否認の登記の抹消の嘱託は,第4の4の例によるものとする(改正民事再生法第13条第4項,改正会社更生法第262条第4項)。この場合の嘱託書における登記原因の記載は,「再生計画認可」又は「更生計画認可」とする。
なお,否認の登記がされている場合における再生手続終結,再生手続の終了前の再生計画取消し及び再生計画認可後の再生手続廃止並びに更生手続終結及び更生計画認可後の更生手続廃止についての登記の嘱託の規定は,削除された。

(2)否認権のための保全処分
否認権のための保全処分の登記の嘱託は,第3の1の例によるものとする(改正民事再生法第12条第1項第2号,第134条の2第1項,改正会社更生法第39条の2第1項,第260条第1項第2号)。

(3)破産の登記の抹消の嘱託に係る規定等の削除
新破産法では,破産者が法人である場合に限って,破産財団に属する権利で登記したものに関する破産の登記等の制度が廃止された(第1参照)ことから,会社更生手続における更生計画認可の決定があった場合の更正会社に属する権利で登記されたものについての破産の登記の抹消の嘱託及び更生計画認可の決定を取り消す決定が確定した場合の抹消された破産の登記の回復の嘱託に係る規定が削除された。

(4)印鑑証明書の特例
民事再生規則等の一部を改正する規則(平成16年最高裁判所規則第15号)により,民事再生規則(平成12年最高裁判所規則第3号),会社更生規則(平成15年最高裁判所規則第2号)及び外国倒産処理手続の承認援助に関するする規則(平成12年最高裁判所規則第17号)が改正された。これにより,改正民事再生法,改正会社更生法又は金融機関等の更生手続の特例等に関する法律(平成8年法律第95号)による管財人及び保全管理人並びに外国倒産処理手続の承認援助に関する法律(平成12年法律第129号)による承認管財人及び保全管理人の印鑑証明書(民事再生規則第27条第2項,会社更生規則第20条第4項,金融機関等の更生手続の特例等に関する規則第1条,外国倒産処理手続の承認援助に関する規則第30条第4項)も,第5の2(1)イ(イ)と同様の扱いとなる。

第8 登録免許税の非課税

第2から第4まで及び第6に掲げる登記の嘱託又は申請については,登録免許税を納付することを要しない(新破産法第261条)。
なお,これらの登記の嘱託書又は申請書における登録免許税の記載は,「破産法第261条」とする。

第9 登記の記載

第2から第6までに掲げる登記の記載は,従前の例によるほか,別紙の振り合いによる。

第10 経過措置

新破産法の施行前にされた破産の申立て又は薪破産法の施行前に職権でされた破産の宣告に係る破産事件については,なお従前の例によるとされた(新破産法附則第3条)。したがって,新破産法の施行後であっても,旧破産法事件による否認の登記に係る権利に関する登記をする際の手続については,従前と同様である。
なお,旧破産法事姓による破産決定書の謄本について,破産手続開始の決定の裁判書の謄本とみなす旨の規定は置かれていないため,破産決定書の謄本を添付して 単独で根抵当権の元本の確定の登記を申請をすることはできない。

別紙
破産に関する登記記載例
(省略)