民事再生法及び民事再生規則の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて 平成十二年三月三十一日付け法務省民三第八三九号法務局長、地方法務局長あて民事局長通達

民事再生法及び民事再生規則の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて
平成十二年三月三十一日付け法務省民三第八三九号法務局長、地方法務局長あて民事局長通達

(通達)民事再生法(平成一一年法律第二二五号。以下 「法」という。)及び民事再生規則(平成一二年最高裁判所規則第三号。以下「規則」という。)が四月一日から施行されることとなったので、これに伴う不動産登記事務の取扱いについては、下記の点に留意するよう、貴管下登記官に周知方取り計らい願います。

第一 民事再生手続における不動産登記
一 法による民事再生手続(以下「再生手続」という。)は、和議法による和議手続に代わる中小企業等の再建型倒産処理手続として創設されたものである(法附則第三条参照)。

二 従来の倒産処理手続である破産手続、会社更生手続又は和議手続においては、当該手続の係属及びその経過並びに効果等を公示する趣旨から、不動産登記においても、当該手続の開始、終結若しくは廃止又は計画等の認可、不認可若しくは取消し等の登記をすることとされている(破産法第一二〇条、第一二一条、会社更生法第一八条、第一九条、和議法第八条)が、再生手続においては、原則として、これらの登記はしないこととされた。

三 二に伴い、再生手続において効力を失う保全処分の登記の抹消及び抹消された保全処分の登記の回復、否認の登記の抹消並びに否認の効果が確定した場合の登記の嘱託手続が設けられた(第二の二(2)、第三、 第四の二及び三参照)。

四 担保権消滅の制度の創設に伴い、当該制度により消滅した担保権に係る登記の抹消の嘱託手続が設けられた(第五参照)。
第二 保全処分に関する登記
一 保全処分の登記の嘱託

   再生債務者財産に属する権利で登記がされたものに関し保全処分(法第三〇条第一項)があった場合又は法人である再生債務者の理事、取締役、監事、 監査役、清算人又はこれらに準ずる者(以下「役員」という。)の財産に属する権利で登記がされたものに関し保全処分(法第一四二条第一項又は第二項)があった場合には、裁判所書記官から当該保全処分の登記を嘱託しなければならないこととされた (法第一二条第一項)。
(1)保全処分の登記の嘱託書には、登記原因を証する書面として、仮差押え又は仮処分を命ずる決定の決定書の正本が添付されていなければならない。
(2)保全処分の登記の登記原因の記載は、法第三〇条第一項の保全処分については「何地方裁判所 (何支部)再生債務者財産保全の仮差押(又は仮処分)命令」、法第一四二条第一項又は第二項の保全処分については「何地方裁判所(何支部)再生債務者役員財産保全の仮差押(又は仮処分)命令」とする。 なお、登記原因の日付は(当該仮差押命令又は仮処分命令の決定がされた日である。
二 保全処分の登記の変更又は抹消の嘱託
  一の保全処分の変更若しくは取消しがあった場合 (法第三〇条第二項、第一四二条第四項)又は当該保全処分が効力を失った場合には、裁判所書記官から当該保全処分の登記の変更又は抹消を嘱託しなければならないこととされた(法第一二条第二項)。
(1)保全処分の変更又は取消しがあった場合
ア 保全処分の登記の変更及び抹消の嘱託書には、 登記原因を証する書面として、保全処分を変更する決定又は取り消す決定の決定書の正本が添付されていなければならない。
イ 保全処分の登記の変更又は抹消の登記原因の記載は、「何地方裁判所(何支部)変更(又は取消)」とする。なお、登記原因の日付は、当該保全処分を変更する決定又は取り消す決定がされた日である。
(2)保全処分が効力を失った場合
ア 保全処分が効力を失った場合とは、保全処分が取消し以外の原因によって失効した場合であって、その主な例は、次のとおりである。
(ア)再生手続開始の申立てが取り下げられたとき(法第三二条)。
(イ)再生債務者財産に対する保全処分があった場合において、再生手続開始の決定がされたとき(法第三〇条第一項、第三三条第二項)、 又は再生手続開始の申立てを棄却する決定がされたとき(法第二五条、第三〇条第一項)。
(ウ)法人である再生債務者の役員の財産に対する保全処分があった場合において、再生手続開始の申立てを棄却する決定が確定したとき (法第二五条、第三六条第一項)、又は再生手続開始の決定を取り消す決定の確定(法第三 七条)、再生計画不認可の決定の確定(法第一七四条第二項、第一七五条第一項)、再生手続終結の決定(法第一八八条第一項)、再生計画取消しの決定の確定(法第一八九条第一項及び第六項)若しくは再生手続廃止の決定の確定(法第一九一条、第一九二条第一項、 第一九三条第一項、第一九四条、第一九五条 第五項)により再生手続が終了したとき。
イ アの場合、登記原因を証する書面は存在しないので、保全処分の登記の抹消の嘱託書には、 嘱託書の副本及び当該保全処分が効力を失ったことを証する書面が添付されていなければならない(規則第八条第一項第一号)。
ウ アの場合、保全処分の登記の抹消の登記原因の記載、その日付及び当該保全処分が効力を失ったことな証する書面は、それぞれ次に掲げるとおりとする。

第三 再生手続において効力を失う保全処分等に関する登記
一 会社整理手続等における保全処分の登記の抹消の嘱託
 再生手続開始の決定があった場合には、再生債務者の財産に対して既にされている会社整理手続及び特別清算手続はその効力を失う(法第三九条第一項)ことから、裁判所書記官は、再生債務者に属する権利で登記がされたものについて商法(明治三二年法律第四八号)第三八七条第二項(同法第四五四条第二項において準用する場合を含む。)の規定による保全処分の登記があることを知ったときは、当該保全処分の登記の抹消を嘱託しなければならないこととされた(法第一二条第三項)。
(1)当該保全処分の登記の抹消の嘱託書には、嘱託書の副本及び再生手続開始の決定書の謄本が添付されていなければならない(規則第八条第一項第 二号)。
(2)当該保全処分の登記の抹消の登記原因の記載は、 「再生手続開始」とする。 なお、登記原因の日付は、当該再生手続開始の決定がされた日である(法第三三条第二項参照)。
二 一で抹消された保全処分の登記の回復の嘱託
  再生手続開始の決定により効力を失った会社整理手続及び特別清算手続は、当該開始の決定を取り消す決定が確定したときは、その効力を失わなかったことになることから、裁判所書記官は、一で抹消された保全処分の登記の回復を嘱託しなければならないこととされた(法第一二条第四項)。
(1)当該保全処分の登記の回復の嘱託書には、嘱託書の副本及び再生手続開始の決定を取り消す決定の決定書の謄本が添付されていなければならない (規則第八条第一項第三号)。
(2)当該保全処分の登記の回復の登記原因の記載は、 「再生手続開始取消」とする。 なお、登記原因の日付は、当該再生手続開始の決定を取り消す決定が確定した日である(法第三七条参照)。
三 破産の登記の抹消の嘱託
  再生計画認可の決定が確定した場合には、再生手続開始の決定により中止していた破産手続は効力を失う(法第一八四条第一項)ことから、裁判所書記官は、再生債務者に属する権利で登記されたものについて破産の登記があることを知ったときは、当該破産の登記の抹消を嘱託しなければならないこととされた(法第一二条第五項)
(1)当該破産の登記の抹消の嘱託書には、嘱託書の副本及び再生計画認可の決定書の謄本が添付されていなければならない(規則第八条第一項第四号)。
(2)当該破産の登記の抹消の登記原因の記載は、 「再生計画認可」とする。 なお(登記原因の日付は、当該再生計画認可の決定が確定した日である(法第一七六条参照)。

第四 否認に関する登記
一 否認の登記の申請
  監督委員(法第五四条第二項)又は管財人(法第六四条第二項)は、再生債務者財産のために、訴え又は否認の請求等の方法によって、否認権を行使することができることとされ(法第一二七条、第=二五条第一項)、登記の原因である行為が否認されたとき、又は登記が否認されたときは、否認の登記を申請しなければならないこととされた(法第一三条 第一項)。
(1)否認の登記の申請書には、登記原因を証する書面として否認を認容する判決(否認の請求を認容する決定を認可する判決を含む(法第一三七条第一項及び第四項)。)の正本及び確定証明書又は否認の請求を認容する決定書の正本及び確定証明書が、監督委員又は管財人の資格を証する書面として選任証明書(規則第二〇条第三項、第二七条) 又は法人である再生債務者の登記簿謄抄本が、それぞれ添付されていなければならない。
(2)否認の登記の登記の目的の記載は、登記の原因である行為の否認の場合には「何番何登記原因の民事再生法による否認」と、登記の否認の場合に は「何番何登記の民事再生法による否認」とする。
(3)否認の登記の登記原因の記載は、「判決(又は決定)」とする。 なお、登記原因の日付は、判決又は決定が確定した日である。
二 否認の登記の抹消の嘱託
(1)否認の登記がされている場合において、再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、否認の効果は失われることから、裁判所書記官は、次に掲げる場合には、登記上利害関係を有する第三者があるときを除き、否認の登記の抹消を嘱託しなければならないこととされた(法第一三条第二項)。
ア 再生手続開始の決定を取り消す決定が確定したとき(法第三七条)。
イ 再生計画不認可の決定が確定したとき(法第一七四条第二項、第一七五条第一項)。
ウ 再生計画認可の決定の確定前に再生手続廃止の決定が確定したとき(法第一九一条、第一九二条第一項、第一九三条第一項、第一九五条第五項)。
(2)否認の登記の抹消の嘱託書には、嘱託書の副本及び(1)のアからウまでに掲げる決定の決定書の謄本が添付されていなければならない(規則第八条 第一項第五号)。
(3)否認の登記の抹消の登記原因の記載及びその日付は、それぞれ次に掲げるとおりとする。

(4)監査委員又は管財人は、再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、速やかに、 否認の登記のされている登記簿の謄本を裁判所に提出しなければならないこととされた(規則第八条第二項)。
(5)否認の登記の抹消に登記上利害関係を有する第三者がある場合には、否認の登記の抹消をすることはできない(法第一三条第二項ただし書)が、 登記上利害関係を有する第三者とは、否認の登記がされた権利又はこれを目的とする権利を取得した旨の登記を経由している者をいう。
三 再生手続終結、再生計画取消し及び再生手続廃止の登記の嘱託
(1)否認の登記がされている場合において、再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは、否認の効果が将来的に覆らないことに確定することから、裁判所書記官は、次の各号に掲げる区分に従い、それぞれ当該各号に定める登記を嘱託しなければならないこととされた(法第一三条第三項)。

(2)(1)の登記の嘱託書には、嘱託書の副本及び(1)のアからウまでに掲げる決定の決定書の謄本が添付されていなければならない(規則第八条第一項第五号)。
(3)(1)の登記の登記の目的の記載、登記原因の記載及びその日付は、それぞれ次に掲げるとおりとする。

第五 担保権消滅の登記
一 担保権の消滅
  再生手続開始当時再生債務者の財産の上に特別の先取特権、質権、抵当権又は商事留置権(以下「担保権」という。)が存する場合において、当該財産が再生債務者の事業の継続に欠くことのできたいものであるときは、再生債務者等(管財人が選任されていない場合にあっては再生債務者、管財人が選任されている場合にあっては管財人をいう。)は、裁判所の許可を得て(当該財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付することにより、当該財産の上に存するすべての担保権を清滅させることができることとされた(法第一四八条)。
二 担保権に係る登記の抹消の嘱託
  裁判所書記官は、再生債務者等が担保権の目的である財産の価額(担保権消滅の許可の申立書に記載した申出額又は価額決定により定められた価額)に相当する金銭を裁判所に納付したときは、消滅した担保権に係る登記の抹消を嘱託しなければたらないこととされた(法第一五二条第三項)。
(1)担保権に係る登記の抹消の嘱託書には、嘱託書の副本及び担保権消滅の許可の決定書(法第一四八条第三項)の謄本が添付されていなければならない(規則第八一条第三項)。
(2)担保権に係る登記の抹消の登記原因の記載は、 「民事再生法による担保権消滅」とする。 なお、登記原因の日付は、再生債務者等が担保権の目的である財産の価額に相当する金銭を裁判所に納付した日である(法第一五二条第二項参照)。
第六 登録免許税
 第二から第四までに掲げる登記の嘱託又は申請については、登録免許税を納付ずることを要しない(法第 一四条)。
 なお、これらの登記の嘱託書又は申請書の登録免許税の記載は、「民事再生法第一四条」とする。
第七 登記の記載
 第二から第五までに掲げる登記の記載は、従前の例によるほか、別紙の振り合いによる。
(別紙)
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