商法等の一部を改正する法律の施行に伴う登記事務の取扱いについて 平成十一年九月三十日付け法務省民四第二一〇七号民事局長通達

商法等の一部を改正する法律の施行に伴う登記事務の取扱いについて
平成十一年九月三十日付け法務省民四第二一〇七号民事局長通達

(通達)商法等の一部を改正する法律(平成一一年法律第一二五号。以下「改正法」という。)及び商業登記規則の一部を改正する省令(平成一一年法務省令第四〇号) が本年一〇月一日から施行されることとなったが、これに伴う登記事務の取扱いについては、下記の点に留意し、 事務処理に遺憾のないよう、この旨貴管下登記官に周知方取り計らわれたい。
なお、本通達中、「法」とあるのは商法を、「商登法」 とあるのは商業登記法を、「商登規」とあるのは商業登記規則をそれぞれいい、引用する条文は、すべて改正後のものである。

第一 株式交換制度の新設
一 株式交換の意義
株式会社(以下単に「会社」という。)は、既存の会社間で完全親子会社関係を創設するために株式交換を行うことができることとされた(法三五二条一項)。完全親子会社関係とは、その一方が他方の発行済株式の総数を有する会社(以下、これを「完全親会社」と、他方の会社を「完全子会社」という。)となる関係である。株式交換によって完全子会社となる会社の株主の有するその会社の株式は、株式交換契約書に記載された株式交換の日に完全親会社となる会社に移転し、その完全子会社となる会社の株主は、その完全親会社となる会社が株式交換に際して発行する新株の割当てを受けることにより、その日にその会社の株主となることとされた(同条二項)。
株式交換の効力発生日は、株式交換契約書に記載 された株式交換の日である。

二 株式交換の手続
(1) 株式交換契約書の作成及び承認
ア 株主総会の承認
  会社が株式交換をするには、株式交換契約書 を作成し、株主総会の承認を得なければならな い(法三五三条一項)。この決議は、法第三四三条の規定による特別決議によらなければならない(法三五三条四項)。しかし、完全親会社となる会社の定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがあり、完全子会社となる会社の定款にその定めがないとき又は完全親会社となる会社が株式交換により定款を変更して、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めを設ける場合には、その会社及び完全子会杜となる会社であって定款にその定めのないも’のにおける株式交換契約書の承認決議は、法第三四八条第一項の規定によらなければならないとされた(法三五三条五項、六項)。
イ 株式交換契約書の記載事項
  株式交換契約書には、次の事項を記載しなければならない(法三五三条二項)。
(ア) 完全親会社となる会社が株式交換により定款の変更をするときは、その規定
(イ) 完全親会社となる会社が株式交換に際して発行する新株の総数、額面無額面の別、種類及び数並びに完全子会社となる会社の株主に対する新株の割当てに関する事項
(ウ) 完全親会社となる会社の増加すべき資本の額及び資本準備金に関する事項
(エ) 完全子会社となる会社の株主に支払をすべき金額(以下、「株式交換交付金」という。) を定めたときは、その規定
(オ) 各会社において株式交換契約書の承認の決議をすべき株主総会の期日
(カ) 株式交換の日
(キ) 各会社が株式交換の日までに利益の配当又’は法第二九三条ノ五第一項の金銭の分配をするときは、その限度額

(2) 新株の発行に代わる自己株式の移転
完全親会社となる会社は、株式交換に際してす る新株の発行に代えて、法第二一一条の規定によ り相当の時期に処分をすることを要する自己株式 を完全子会社となる会社の株主に移転することが できる。この場合においては、移転すべき株式の総数、額面無額面の別、種類及び数を株式交換契約書に記載しなければならない(法三五六条)。

(3) 完全親会社となる会社の資本増加の限度額
完全親会社となる会社の資本増加の限度額は下記①に②を乗じた金額から③及び④の金額の加算額を控除した額である(法三五七条)。
① 株式交換の日において完全子会社となる会社に現存する純資産額
② 完全子会社となる会社の発行済株式の総数に対する完全親会社となる会社に移転する株式の数の割合を乗じた額
③ 株式交換交付金の額
④ 法第三五六条の規定により完全子会社となる 会社の株主に移転する株式(交換新株の代用として利用する自己株式)につき会計帳簿に記載 した額
この場合において、完全親会社となる会社が株式交換に際して額面株式を発行するときは、一株の金額にその株式の総数を乗じた額、無額面株式 を発行するときは五万円にその株式の総数を乗じた額を下らない額を資本に組み入れなければなら ないとされた。

(4) 簡易株式交換制度
完全親会社となる会社が株式交換に際して発行する新株(株式交換により完全子会社となる会社の株主に移転する株式も含む。)の総数が、その会社の発行済株式の総数の二〇分の一を超えず、 かつ、株式交換交付金がある場合には、その金額 が最終の貸借対照表により完全親会社となる会社に現存する純資産額の五〇分の一を超えないときは、その会社においては、法第三五三条第一項の総会の決議を得ることなく株式交換できることとされた(法三五八条一項、二項)。この場合の手続 で、通常の株式交換の手続と異なる点は次の点で ある(以下、この手続による株式交換を「簡易株式交換」という。)
ア 株式交換契約書の作成
この場合の株式交換契約書には、法第三五三条第一項の承認を得ずに株式交換をする旨の記載をすることを要し、また、株式交換による定款の変更の規定を記載することができない(法三五八条三項)。
イ 株主に対する公告又は通知
完全親会社となる会社は、株式交換契約書を作成した日から二週間内に完全子会社となる会社の商号及び本店、株式交換の日並びに法第三五三条第一項の株式交換契約書の承認決議を得ずに株式交換する旨を公告し、又は株主に通知 しなければならない(法三五八条四項)。
ウ 株主の株式買取請求権
  イによる公告又は通知の日から二週間内に、 簡易株式交換に反対の株主は、会社に対し、書面をもって簡易株式交換に反対の意思を通知することができ、この通知をした株主は、会社に対し自己の有する株式を株式交換契約がなければその有すべき公正な価格で買い取るべき旨を請求することができる(法三五八条五項)。
工 株式交換手続の中止
完全親会社の発行済株式の総数の六分の一以上に当たる株式を有する株主が簡易株式交換に反対の意思の通知をしたときは、簡易株式交換の手続による株式交換をすることができない (法三五八条八項)。

(5) 株券の失効の手続
完全子会社となる会社は、株式交換契約書の承認決議をしたときは、その旨、株式交換の日の前日までに株券及び端株券を会社に提出すべき旨並びに株式交換の日において株券及び端株券は無効となる旨を、その日の一月前に公告し、かつ、株主及び株主名簿に記載のある質権者には各別に通知しなければたらないとされた(法三五九条一項)。
また、完全親会社となる会社が株式交換により定款を変更して株式の譲渡制限の定めを設ける場合には、完全親会社となる会社は、定款を変更して株式の譲渡制限の定めを設ける旨、一月を下ら ない一定の期間内に株券及び端株券を会社に提出 すべき旨並びにその期間内に提出されない株券及 び端株券は無効となる旨を公告し、かつ、株主及び株主名簿に記載のある質権者には各別に通知しなければならないとされた(法三六二条三項、三五〇条一項)。

(六) 完全親会社となる会社の取締役及び監査役の任期
完全親会社となる会社の取締役及び監査役であって株式交換前に就職したものは、株式交換契約書に別段の定めの記載のあるときを除き、株式交換後最初に到来する決算期に関する定時総会の終結の時に退任する(法三六一条)。

(七) 株式交換無効の訴え
会社の株式交換の無効は、株式交換の日より六月内に限り訴えをもってのみ主張することができるとされた(法三六三条一項)。
この訴えは、各会社の株主、取締役、監査役又は清算人に限り提起することができ(法三六三条 二項)、完全親会社となる会社の本店の所在地の地方裁判所の管轄に専属する(法三六三条三項)。
株式交換を無効とする判決が確定したときは、完全親会社となった会社は株式交換に際して発行した新株又は株式交換により移転した株式の株主に対し、その有していた完全子会社となった会社の株式を移転しなければならない(法三六三条 四項)。
この場合において、受訴裁判所は、当該会社の本店及び支店の所在地の登記所に株式交換の無効の登記の嘱託をしなければならないこととされた (法三六三条五項、一三七条、非訟事件手続法一三五条の七、一三五条の六)。

三 株式交換による変更の登記
(1) 登記期間
株式交換をしたときは、完全親会社となる会社は、株式交換の日から、本店所在地においては二週間、支店所在地においては三週間内に、変更の登記をしなければならない(法一八八条二項、三項、六七条)。

(2) 登記すべき事項
登記すべき事項は、次の事項につき変更を生じた旨及びその年月日である。
ア 発行済株式の総数並びに種類及び数
イ 資本の額

(3)添付書類
申請書に添付すべき書類は、次のとおりである。
ア 株式交換契約書(商登法八九条の二第一号)
イ 完全子会社の株主総会議事録(商登法八九条の二第二号)
ウ 完全子会社の登記簿謄本(商登法八九条の二第三号)
ただし、当該登記所の管轄区域内に完全子会社の本店又は支店がある場合を除く。なお当該謄本は、作成後三か月以内のものでなければならない(商登規則九二条、五六条)。
工 法第三五三条第六項の場合には、法第三五〇条第一項の規定による公告をしたことを証する書面(商登法八九条の二第四号)
オ 株式交換により資本を増加するときは、法第三五七条前段に規定する限度額を証する書面 (商登法八九条の二第五号)
前記二、(3)の①から④までの額等を各別の証明する書面であるが、これらの各書面に代えて、完全親会社となる会社の代表取締役が①から④ までの額等を具体的に摘示した上で当該限度額 を証明した書面でも差し支えない。
力 法第三五八条第五項の規定による反対の意思の通知をした株主があるときは、その株主が有する株式の総数を証する書面(商登法八九条の二第六号)
キ 法弟三五九条第一項の規定による公告をしたことを証する書面(商登法八九条の二第七号)
ク 完全親会社の株主総会議事録又は簡易株式交換にあっては取締役会議事録(商登法七九条一項)
ケ 簡易株式交換において、株式交換交付金を定めたときは、最終の貸借対照表(商登法七九条二項)。
コ 代理人により申請をする場合にはその権限を証する書面(商登法一八条)

(4) 登記の記載例
株式交換の無効の登記の記載は、新株発行の無効の登記の例による。

(5) その他
ア 簡易株式交換による変更の登記の申請書に添付された株式交換契約書に、法第三五三条第一項の承認を得ずに株式交換をする旨の記載がないとき、又は株式交換による定款の変更の規定があるときは当該登記の申請を受理することができない。
イ 株式交換に伴う定款変更
完全親会社となる会社が株式交換により定款を変更する場合には、その規定を株式交換契約書に記載すべきこととされ、定款変更の効力は、 株式交換の効力の発生と同時に生じることとされた(法三五二条二項)。
したがって、変更に係る定款の規定が登記すべき事項に係るものである場合には、株式交換による変更の登記と合わせて定款変更による変更の登記を申請しなければならない。
ウ 登録免許税
株式交換による変更の登記の登録免許税は、本店の所在地においてする登記については増加 した資本の金額の一OOO分の七(これによって計算した税額が三万円に満たないときは、申請件数一件につき三万円)、支店の所在地においてする登記については一件につき九千円であり(登録免許税法別表第一、十九(一)ニ)、これと 合わせてする定款変更による変更の登記の登録免許税は、申請件数一件につき三万円である (登録免許税法別表第一、十九(一)レ)。
なお、資本の増加をしない株式交換による変更の登記の登録免許税は、申請件数一件につき三万円である(登録免許税法別表第一、十九(一) レ)。

第二 株式移転制度の新設
一 株式移転の意義
会社は、完全親会社を設立するため、株式移転をすることができることとされた(法三六四条一項)。 株式移転によって完全子会社となる会社の株主の有するその会社の株式は、株式移転により設立する完全親会社に移転し、その完全子会社となる会社の株主は、その完全親会社が株式移転に際して発行する株式の割当てを受けることにより、その完全親会社の株主となることとされた(法三六四条二項)。
株式移転は、これにより設立した完全親会社がその本店の所在地において、株式移転の登記をすることにより効力を生ずる(法三七〇条)。

二 株式移転の手続
(1) 株式移転の承認
ア 株主総会の承認
会社が株式移転をするには、次の事項につき株主総会の承認を得なければならない(法三六五条一項)。この決議は、法第三四三条の規定 による特別決議によらなければならない(法三六五条三項、三五三条四項)。しかし、完全親会社となる会社の定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨を定める場合において、完全子会社となる会社の定款にその定めがないときは、その会社における株式移転の承認決議は、 法第三四八条第一項の規定によらなければならないとされた(法三六五条二項)。
(ア)設立する完全親会社の定款の規定
(イ) 設立する完全親会社が株式移転に際して発 行ずる株式の種類及び数並びに完全子会社となる会社の株主に対する株式の割当てに関する事項
(ウ) 設立する完全親会社の資本の額及び資本準備金に関する事項
(エ) 完全子会社となる会社の株主に支払をなすべき金額(以下「株式移転交付金」という。) を定めたときは、その規定
(オ) 株式移転をすべき時期
(カ) 完全子会社となる会社が株式移転の日までに利益の配当又は法第二九三条ノ五第一項の金銭の分配をするときは、その限度額
(キ) 設立する完全親会社の取締役及び監査役の氏名
(ク) 会社が共同して株式移転により完全親会社を設立するときは、その旨
イ 完全親会社の資本の限度額の制限
設立する完全親会社の資本は、①株式移転の日に完全子会社となる会社の純資産額から②株式移転交付金を控除した額を超えることができないこととされた。この場合において、完全親会社となる会社が株式移転に際して額面株式を’発行するときは、一株の金額にその株式の総数を乗じた額、無額面株式を発行するときは五万円にその株式の総数を乗じた額を下らない額を資本に組み入れなければならないとされた(法三六七条)。

(2) 株券の失効の手続
完全子会社となる会社は、株式移転の承認決議をしたときは、その旨並びに一定の期間内に株券及び端株券を会社に提出すべき旨並びに株式移転の日において株券及び端株券は無効となる旨を公告し、かつ、株主及び株主名簿に記載のある質権者には各別に通知しなければならないとされた。
ただし、その期間は、一月を下ることができない (法第三六八条一項)。

(3) 株式移転無効の訴え
会社の株式移転の無効は、株式移転の日より六月内に限り訴えによってのみ主張することができるとされた(法三七二条一項)。
この訴えは、各会社の株主、取締役、監査役又は清算人に限り提起することができ(法三七二条 二項、三六三条二項)、完全親会社となる会社の本店の所在地の地方裁判所の管轄に専属する(法三七二条二項、三六三条三項)。
株式移転を無効とする判決が確定したときは、完全親会社となった会社は、株式移転に際して発行した新株又は株式移転により移転した株式の株主に対し、その有していた完全子会社となった会社の株式を移転しなければならない(法三七二条二項、三六三条四項)。
この場合において、受訴裁判所は、当該会社の本店及び支店の所在地の登記所に株式移転の無効の登記の嘱託をしなければならないこととされた (法三七二条二項、一三七条、非訟事件手続法一三五条の七、一三五条の六)。

三 株式移転による設立の登記
(1) 登記期間
完全親会社となる会社の代表取締役となるべき者は(商登法八九条の三第二項、五五条一項)、株式移転に必要な手続がすべて終了したときから、 本店所在地においては二週間、支店所在地においては三週間内に、設立の登記をしなければならない(法三六九条)。

(2) 添付書類
申請書に添付すべき書類は、次のとおりである。
ア 完全子会社の株主総会議事録(商登法八九条 の三第一項一号、八九条の二第二号)
イ 完全子会社の登記簿謄本(商登法八九条の三 第一項一号、八九条の二第三号)
ただし、当該登記所の管轄区域内に完全子会社の本店又は支店がある場合を除く。なお、当該謄本は、作成後三か月以内のものでなければならない(商登規則九二条、五六条)。
ウ 定款(商登法八九条の三第一項二号、八〇条一号)
工 取締役、代表取締役及び監査役が就任を承諾したことを証する書面(商登法八九条の三第一項二号、八○条八号)
オ 名義書換代理人又は登録機関を置いたときは、 これらの者との契約を証する書面(商登法八九条の三第一項二号、八○条九号)
力 法第三六七条前段に規定する額を証する書面 (商登法八九条の三第一項三号)
前記二、(1)、イの①及び②の額を各別に証明 する書面であるが、これらの各書面に代えて、 完全親会社となる会社の代表取締役が①及び②の額を具体的に摘示した上で当該額を証明した書面でも差し支えない。
キ 法第三六八条第一項の規定による公告をしたことを証する書面(商登法八九条の三第一項四号)
ク 取締役会の議事録(商登法七九条一項)及び 代理人により申請をする場合にはその権限を証する書面(商登法一八条)